(江戸時代)
サイズ 女雛4×14・男雛11×22

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雛には大きく分けて立ち雛と坐り雛があります。
立ち雛は坐り雛より以前に作られ、ほとんどが紙で出来ていたので紙雛とも呼ばれています。雛の始まりは (わざわい)(けがれ)(はら) う為に作られた 人形(ひとがた) で、それを川や海に流す風習がありました。そういえば小さい頃、近くの神社から男女の 人形(ひとがた) を貰い、物事の深い意味も解らず自分の名前と年齢を書き、頭から足の先まで撫でて家族そろって神社に納めた記憶があります。

人形(ひとがた) は時代と共に『ひいな』に移り、やがて雛になったと言われています。『ひいな』とは紙や木で小さくて可愛らしく作られた女の子の遊ぶ人形のことです。平安時代、貴族階級の人形遊びであった『ひいな遊び』が、やがて江戸時代中頃には今のような『雛祭り』となって庶民にも広まり親しまれてきました。清少納言の枕草子にも『ひいな遊び』のようすが書かれています。

さて今回の立ち雛ですが、衣装は、男雛は袖が左右にピンと張った袴姿。女雛は帯を結び何故か熨斗紙を巻いた様な姿。朱色の小袖にはめでたい松竹梅の吉祥摸様が描かれ、女雛の衣装の中央にも同じ文様があります。男女とも手先を出さず、顔は細長く引き目 鉤鼻(かぎばな) 。頭は紙か藁を芯にして作り、それに胡粉を塗って鼻を盛り上げ、目や口は墨か朱で描かれています。しかしよく見ると女雛の鼻と口が少々片方に寄っていて美人とは言えません。
ですが、かえっておかしさがあって、なんともあどけない幼子のようで愛らしいのです。完璧すぎて一分のスキも無いものより心惹かれます。
衣装には和紙を使っています。和紙の特性の折る、たたむ、版摺りの加工が生かされ、芯には何枚かの古紙を重ねてふくらみを持たせています。和紙は身近にありましたし、細工がしやすく独特の風合いがあるのです。所々痛みや色落ちしているこの雛は簡素な作りでありながらも風格を感じます。子供を慈しむ心を伝えてくれる懐かしい立ち雛。
小さき愛らしい立ち雛から今も昔もわが子の健やかな成長を願う気持ちは変らないものだと深く考えさせられます。
桃の節句は春の訪れを形に表し、心はずむ華やかな行事です。
それは私達の心に華やかで優雅な平安時代そのものへの憧れが関わっているかもしれません。