扇はもともと筆記用に木簡を綴じ合わせる必要があってそれを束ねコンパクトにしたものから始まったといわれている。そして、日本で考えられた。
  『あふぎ』と言う言葉から出ている説があり、元来、風を送る役目をするのだが、形が末広がりに通じるので末広とも言い縁起の良いものの一つとされてきた。
そして、挨拶に使われる際の結界として、落語や講談の小道具や日本舞踊などの舞に、棋士が対局のとき考える際に使う事もある。




  ここで、扇が使われる最も美しい場面を紹介したい。源氏物語の夕顔である。光源氏が夕顔の花を見つけて付き人に取りに行かせた時、その家の者が扇に花をのせて渡す場面である。その扇に歌が書いてあり、そこから物語が展開するのだが扇は控えめで簡素ながらも引き立て役としてうまく生かされている。
  昔、貴族などの特権階級しか使用されなかった扇。広げて開き、折りたたんで収め何度もそれに耐える強さを考えた技術はこうもりの翼がヒントだったと言う話もあるらしい。和紙を数枚貼り合わせ端正に折りたたみ、中に竹を差し込み要(かなめ)で止める。あらゆる物をしなやかに受け取る竹と優雅さを秘めた強い和紙の取り合わせ。手のわずかな動きで扇面が表れそして閉じる、閉じた時の音の凛とした響き。この上なく巧みですぐれていて絶妙と言う外にない。
  かつて儀礼や贈答など社会生活で人と人がお互いの伝達がうまく運ぶようにと用いられた扇は私達の生活に深く入りこんで独特の文化の彩りを添えた。

写真は古くから長寿の象徴として尊ばれる鶴があかね雲の中を優美に舞っている趣のある扇である。